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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)842号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人米山与助弁護人久留義郷の上告趣意について。

所論は結局、犯状、被告人の性格、家庭の情況、その他犯罪後の事情を述べて原判決の量刑不当を主張するに帰着し、上告適法の理由とならない。

被告人小川新一弁護人五井節蔵の上告趣意第一点について。

所論判示第一の(一)の各所為が、いずれも昭和二二年法律第一二四号刑法中一部改正法の施行前になされたものであることは論旨の指摘する通りである。しかし、原審は原判決挙示の証拠により右各所為が別個の意思発動に基ずくものと認定したものであること判文上明らかであり、しかもこの事実認定は、その証拠に照らしこれを肯認するに難くないのである。のみならず原審は判示第一の(一)(二)の各所為を刑法第四五条前段の併合罪と認め同法第四七条第一〇条に従い最も重い判示第一の(二)の最終の賭場開張図利罪の刑に法定の加重をなして被告人を所断しているのであるから、判示第一の(一)の各所為を連続一罪とみても、また、併合罪とみても、結局判示第一の(二)の最終の賭場開張図利罪の刑に法定の加重をすることに帰するのであって原判決の擬律上の結論には影響がなく、論旨は採用に値しない。

同第二点について。

原審は、判示第一の(一)(二)の銃砲等所持禁止令違反及び賭場開張図利罪の各所為が、すべて刑法第四五条前段の併合罪の関係にあるものとし、右銃砲等不法所持罪については各懲役刑を選択の上、同法第四七条第一〇条を適用して最も重い判示(二)の最終の賭場開張図利罪の刑に法定の加重をなしその刑期範囲内で被告人を懲役一〇月に処したものであること判文上明白である。されば原判決にはこの点に関し何等の違法もない。所論は、要するに刑法第四七条の適用に関し、併合罪の関係に立つ数罪中罪質を同じくするものある毎に、まず各別にその最も重き罪を定め、然る後更にそれらの罪の中最も重きものにつき併合罪の加重をなすべしというに帰着するものゝ如くである。しかし、同条は單に併合罪の関係に立つ数罪の中二個以上の有期の懲役又は禁錮に処すべき罪ある場合それらの罪につき併合罪の加重をなしその処断刑を定める方法を規定したに過ぎないのであるから、所論の如く併合罪中に同罪質の罪ある場合であっても、それらの罪毎に同条を適用すべき何等の理由も存しないのである。論旨は採用に値しない。

同第三点について。

原審が所論各押収物件を沒収したのは、それらの物件をいずれも判示第一の(二)の賭場開張図利罪の犯行に際して使用されたものと認めたからであり、犯罪組成物件として、これを沒収したものではない。この事は原判決の説示により明瞭である。論旨は判旨の誤解に基ずく所論と認められ採用の限りでない。

同第四点について。

賭場開張図利罪は犯人が自ら主宰者となりその支配の下に賭博をさせる一定の場所を提供し、寺銭入場料等の名目で利益の収得を企図することによって成立するのであり、所論の如くこれを慣行犯と解すべきいわれはない。原審は、判文上明らかなように被告人が各別個の意思発動により、自宅及び横須賀市久比里西住宅二の八号山本昌夫方において、それぞれ日時を異にし、各別個の賭場開張図利の行為をなしたものたることを認定しているのである。原判決がかかる事実認定の下に、これを併合罪とみたのはむしろ当然であり、原判決には所論のような違法はなく、論旨は採用に値しない。

同第五点について。

賭場開張図利罪において図利の事実がその犯罪構成要件たることは勿論であるが、その収得せんとした利益の価額、数量等は必ずしもこれが構成要件ではない。原判決では、被告人が判示の日時頃、判示の各賭場を開張し、多数の賭客を招き判示の賭博をなさしめて寺銭を徴して利を図ったものであることが説示されているのである。従って原判決はその徴した寺銭の金額を明示しなかったとしても、なお所罰の対象とされた被告人の賭場開張図利行為を具体的に説示したものというに十分である。論旨は理由がない。

同第六点について。

所論の各押収物件は、原審が証拠として事実認定の資料としなかったものであること原判決の証拠説明により明らかである。従って仮りに、それらの物件につき適法な証拠調がなされなかったものとしても、その事自体原判決には何等影響するところはない。論旨は採るを得ない。なお所論各日本刀の長さについて原判決の認定と所論各書類の記載との間に多少相違するところがあるとしても、それらの書類は原審が証拠として採用しなかったものであるから、この点に関する所論は畢竟事実審である原審の裁量権に属する証拠の取捨を非難し延いては事実認定を論難するに帰着し、上告適法の理由とならない。

同第七点について。

原審は判示銃砲等不法所持罪及び賭場開張図利罪の犯行を認定し併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人に対し懲役一〇月の刑を言渡したのである。そして事実審裁判所が犯罪者に対し法律上許された範囲内で普通の刑を量定し所断した場合、たといそれが被告人の側からみて過酷な刑と思えるとしても、これを目して憲法違反ということはできない。この事は当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二二年(れ)二〇一号同二三年三月二四日大法廷判決、同二二年(れ)三二三号同二三年六月二三日同上判決参照)。のみならず本件が「犯罪に因る処罰の場合」たることは勿論であって、所論は畢竟、名を憲法違反に藉りて、事実審である原審がその裁量権の範囲内で適法になした刑の量定を非難するに帰し、上告適法の理由となすに足りない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)

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